「禿山の一夜」 歌劇「ソローチンツィの市」に基く最新版

 リムスキー=コルサコフの添削が入らない「本物の」ムソルグスキーを演奏しよう!

 

 この曲に限らず(ボリス・ゴドノフや展覧会の絵といった代表作もです)、リムスキー=コルサコフはムソルグスキーの才能は認めていましたが、曲には素人っぽいところや音楽的な誤りが含まれると考えていたようで、彼の作品を世に出すにあたって色々と手直しを加えています。

 もっともそうしてでも世の中に広めてくれたお陰でムソルグスキーが「マニアしか知らない無名作曲家」ではなく教科書に顔がのるようなメジャーな存在になったので、功罪でいうと功だったとは思います。

 

 ではありますが、「禿山の一夜」に関してはちょっと事情が違います。

 ムソルグスキーの最終的な考えと思われるバージョンは、未完のオペラ「ソローチンツィの市」の一場面として残されています。オペラ全体は未完ではありますがこの場面に関してははピアノ連弾のヴォーカルスコアという形でオーケストレーションはともかくかなり完成された形で残されています。(連弾でのCDも出ています)

 リムスキー=コルサコフも基本的にはこの版を基にオーケストラ版を作ったようですが、かなり添削してしまっていて、ある意味「ムソルグスキーのモチーフ・素材を使っているけれどもリムスキー=コルサコフの作品」になってしまっている感があります。

 

 最近はいわゆる原典版(1867年版、初期のバージョン)がワイルドで面白いとよく演奏されるようになりました。ストラビンスキーやヤナーチェクなどを経験した我々には、ムソルグスキーの破天荒さは添削の必要を感じない時代になっているのでしょう。

 

 ただ1867年版はバラキレフに却下されてお蔵入りになったというだけあって、オーケストラ的には技術的にかなり難しいフレーズを含んでおり(アバド・ベルリンフィル位のスーパーオケだからこそちゃんと演奏出来てカッコよく仕上がるのでしょう)なかなか素人には手が出せません。

 

 「ソローチンツの市」はラムによる校訂・構成とシェバーリンによるオーケストレーションで上演されるようになり(YouTubeでも舞台上演を見ることができます)「禿山」部分の録音も出回るようになりましたが、なにせオペラの1場面ですので、混声合唱、児童合唱、ソリストが必要な上、舞台がないとわかりにくいフレーズも含んでいるので、一般のコンサートで演奏するにはハードルが高いです。

 

 なので今回は「ソローチンツィの市」版のスケッチを基本にしつつ、最小必要限のカットを施し、1867年版のオーケストレーションも参考にして、純器楽バージョンを作りました。編成は基本的に1867年版と同じです。もちろんリムスキー=コルサコフやシェバーリンに影響されている部分も多いとは思いますが、なかなか良い感じに仕上がったのではないかと思っています。

 

 スコアおよびパート譜は「ミュージックベルズ」により既に出版・販売しておりますが、まだ演奏される機会がなく、初演の日をひたすら願っております。

 

出版社「ミュージックベルズ」の該当ページはこちらです

 

ブログ内にもちょくちょく書いています。

オーケストラ版「禿山の一夜」

「禿山の一夜」の歴史

オペラ「ソローチンツの市」

禿山の一夜 出版譜表紙