きっかけは3月にNHK BSの朝のクラシック番組で放送された小糸恵さんの演奏でした。
うちにレコードもあったし曲は知っていたのですが、この放送を見て感じるものがあり、ほとんど唐突に「この曲に取り組もう」と思ったのです。
私がこの様にオーケストラに編曲するのはいくつか理由があります。
まず、合奏という、皆で音楽の喜びを共有する形で名曲をもっともっと世に広めたい事。
また、私はオーケストラという「楽器」そのものが大好きで、個々人で役割分担をすることにより魔法のようなことが出来てしまうこの演奏形態に夢中なこと。
曲が話題になることにより自分が音楽家として認められる、また曲の演奏をきっかけとして、指揮の仕事も、という邪心も有りますが。
全体にはなるべくパイプオルガンサウンドのイメージに近づけるべく4フィートストップを入れた状態、つまり記譜のオクターブ上を重ねた楽器の割り振りにしています。もちろん例外部分もありますし、逆に2オクターブ、3オクターブ上も重ねている部分もあります。
また、この作品にはバッハには珍しく、ストップの指定が(トッカータ部分に)あります。
とは言っても”Overwek"と”Positiv"の区別だけなので音色というよりは響く空間の立体効果を狙ったものだと思います。演奏にもよりますが、レコードCDではよくわからない場合も多いです。音色的に差をつける演奏ももちろんよくありますが、ここでは、
Overwerk:管楽器が優勢っぽいTutti系の音
Positiv:弦楽器主体のサウンド
と主に割り振ってみました。
全体には「パイプオルガンサウンドの再現」よりは「オーケストラ曲として、演奏して・聴いて面白い」を心掛けました。
実はこの曲はドリア旋法で出来ているというよりは普通に「ニ短調」なのだが、
①調号を付けずに臨時記号で処理している。
(なぜそうしたかは不明。フーガの主題の受け部分(応唱)などでBでなくH音の出番が多いので、トータルでは臨時記号の節約になってるかも)
②有名な「トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565」と区別するのに便利だから。
の二つの理由で「ドリア調」と呼びならわされていると私は理解している。
さて前半のトッカータ。
BWV565ではテンポもどんどん変わりかなり即興的な音楽であるのだが、538はもっとがっしりした曲調・構造になっている。
(手持ちの楽譜ではプレリュード”PRAELUDIUM"と書かれている。)
冒頭はこの様に始まる。
いきなり追いかけっこでフレーズが始まるがこれは厳格な対位法ではなく、むしろコード進行で動いている曲調になっている。
37小節目でちょっと雰囲気の違う曲調になる。
これが4度進行で一巡すると次の曲調に変わる。(43小節目)
これも4度進行で進んでゆく。
面白いのはこの一連のフレーズは、曲の後半に(66小節目以降)もう一度現れるのだが、微妙に調を変えている。特に43小節目のフレーズは5度下がって現れ、ソナタ形式の第2主題みたいなものに感じられる。
で、ここがミソなのだが、楽譜をよく見ると5度下げと見せかけて実は最初の2拍を削っただけなのだ。なんというか恐るべしバッハ!(楽譜を入力するときコピペが使えるのでありがたい!)
これに気が付かないと「何でペダルの進行がジグザグになっているのだろう」と不思議に思ってしまう。
さて、フーガ。
次の主題で粛々と始まる。
トッカータ部の主題と微妙な関連性があるが、それを強調しすぎるほどではない。特徴としては①2分音符が多く、あまり動きはない。②でもシンコペーションが多い。③だんだん上がって、だんだん下がる。
といったところ。
重要なのは応唱が入って次に原調に戻るときのつなぎフレーズ。(114小節目。ここではトッカータとフーガを連続の小節番号で数えています。つまりフーガ冒頭=100小節目)
この、カッコで示したモチーフが後で大活躍するのです。はじめのうちは主要主題を導く場面でのつなぎに便利に使っているという風だったのが、187小節以下(Youtube音源では7分53秒すぎ)の部分などこのモチーフのくんずほぐれつの追っかけっこで曲を盛り上げているし、曲の最終部(300小節目以下)はこのモチーフがまるで勝利の雄叫びでもあるかのように高らかに響くのです。
というわけで最後にYoutube